外径であれば、リード角の設定が刃先Rの寿命に影響があり、すくい角は多くがマイナス設定ネガティブとなりますが、ボーリング加工では、切削力は垂直方向に加えてねじれ方向にはたらくため、違った考え方が必要です。また、刃物とスピンドルの芯出し位置の傾向についても両者は異なります。
また、刃物の靭性を増す、ハードターニングでの効用が高い「負のすくい角」は主軸の出力を20%消費しますので、切削距離をかせぐために切込みを大きくする場合には主軸の出力が十分であるか、またその背分力を機械が十分に受け止められるの配慮が必要です。加えて、断続面の加工において、コスト面で優位なセラミックチップを使用したい場合にはヒートショック対策としてドライ切削を行うことが必要となります。その結果、熱伝導性の高いCBNへの転換という結論が導かれるかもしれません。
このように加工部位毎に異なる特性を考慮して刃物の仕様は決められ、また切削条件は調整されるべきものです。
砥粒の自生作用に期待が可能な砥石と異なり、シングルポイントで加工を請け負うハードターニングは、諸要求に答えつつ切刃の状態を長く維持するという精密加工の原則をさらに要求されるといってもよいでしょう。例えば、薄物加工の場合に、形状精度を追求するために弾性変形を軽減したいとします。それには半径方向の配分力を小さくする目的で(切削抵抗低減のために)刃先Rを小さくすることは有効です。一方、刃先Rが小さくなれば、面粗さ達成のためには、より送りを小さくすることとなり、結果的に切削距離が延びることとなり、寿命にはマイナスに働きます。また、小さい刃先Rは熱の集中が起こりやすくなるため、リード角の変更などによって対策ができないかの検討も必要かもしれません。
また、経験を積むことで、例えばHRC62の硬度を持つD6の材料に対して、最も刃物寿命が長くなるすくい角は何度といった独自データが、解決策となるかもしれません。
一方、耐摩耗性はCBNに劣るものの、コスト面で優位なサーメットを使用し、さらにその特徴である「切削距離に正比例する磨耗進行」をツール交換のインターバルとするといったもっとも簡易的な方法が合理的かもしれません。
刃物の仕様は、ほとんどがプラス面とマイナス面を併せ持っているために、必然的にまずは優先順位を決定し時には変更を加えながら、かつ独自データを加味して最もバランスのよい状態にセッティングを行うことが重要になります。