「これからやろうとすることで有名になることはできない」。自動車王ヘンリー・フォードの名言のように、超精密ハードターニングはクマー社にとって決して実験的なプロジェクトではありません。80年代の超精密加工機(ダイヤモンド旋盤)の経験と、その後の自動車部品高速加工機のコア技術の結集として生まれたのがそれだったのです。
「曲げ」「ねじれ」応力に最も強いのが四角材。それを断面で切ったような構造は、直感的に剛性が高いことをイメージさせます。加えて、その左右対称構造は、熱・振動といった外乱要素に最も影響されにくいことを示唆します。
一般的な旋盤とは全く異なる構造は、ジグボーラー、超精密加工機にむしろよく似ています。構造面に加え、異なる種類の複合素材から成っており、各々のデメリットを互いが補間する素材を組み合わせてあり、自重は7トンもあります。
「測定点と読み取り点は同一軸上にいること」。アッベの原理は工作機械にもあてはまります。加工点とスケール読み取り位置は極力近くにいなければなりません。上記の躯体とスピンドルガイドの位置は、この原理には反しているようにも見えますが、クマーはX-Zの二軸を重ねることを避けるため(加工点と測定点が離れる構造とはせずに)、独自のパラレルリンクスライドを考案し(特許)アッベの原理をクリアしています。
パラレルリンクを駆動するのはリニアモーター。60m/minの早送り速度と1Gの加速度を誇ります。100Km/hまで2秒程度で到達する加速度は、1000馬力の2億円近いスーパーカー、ブガッティ・ヴァイロンと同じです。
さらに、パラレルリンクと主軸を組み合わせた重量は200Kg程度しかなく、上記の箱型躯体が7トンあったことと非常に対照的です。この対照さが、双方の(移動体と躯体)周波数の違いとなり、共振を起こさない一つの重要な技術要素となっています。cBNバイトの欠点は靭性がないこと(粘りがないこと)であり、振動によるチッピング(欠け)をいかに避けるかは、非常に重要なクリティカルポイントです。