2019年3月15日





工作機械におけるデザインの重要性を、前回さらにその前から実にくどくど申し上げておりますのは、工作機械業界に巻き込まれているはずのヒトたちでさえ、工作機械設計の基本的な原則がすっぽり抜けていることが珍しくないからです。

例えば、工作機械一般に、その躯体が(あまりにも)すこしバカバカしいほどの無遠慮ぶりで堂々としすぎていることと、ミクロン単位(またはそれ以下)という世界観との違和感に混乱をきたし、どうも整理がつかないからなのか、おそらく「ミクロン⇒とっても小さい⇒当然機械も相当小さくあるべき(なのになぜそうじゃないの??)」と短絡的に:




「工作機械はなんでむだに大きいんかね。これなんか耳たぶぐらいのものしか加工しないってのに・・みんなおもいこみたっぷりの石アタマなのか、進化しないむかし型なのか、マーケットを無視してるかわからんが、、俺ならデスクトップぐらい(手を広げて)の大きさで設計(
させる強調)けどね・・セールスのほうが思い付きがいいのかねぇ。。工場目線じゃだめなんだよ。。。あ、やっぱり!?マーケット見てるんだろうなぁ俺は・・。。そう!!資産効率も低下するしね(と、その高い意識を中吊りMBA広告知識でチラ見せ)」



と、なんとか自身のバランスを維持するついでに、妙に得意げに(じつはそのアイデアはそれほど斬新ではないものの)悦に浸る方がいらっしゃいます。大きな躯体≒むだ⇒マーケットみてない という批判です。

ですが、一般論として、”大きな躯体≒むだ” ではありません。その大きさにまったく似合わないミクロン単位(またはそれ以下)で生きているからこそ、そこにはごく本質的な意味があります。



【ベッド】
ベッドなど、固定されている構造体については重量を増加させることで(顧客の現場では当たり前に存在する)「振動」を「吸収」する方法が一般的です。(※「振動を吸収」することを考えた場合。「振動を打ち消す」ことを考えた場合は別)

また、硬い金属を加工する際に発生する大きな「反作用」という逆向きの力に耐えうる重量が必要であり、例えば、扇風機などを例に考えれば、あまりにも軽量となればプロペラが推進力となって前進しかねないのであり、大きな躯体≒むだ とは言えません。(※放電加工機、レーザ加工機などは違う考えとなります)重量物押し比べするのには、相当の体重が必要であり、それが有利に働きます。まったくもってびくともしないものが必要です。耳たぶの大きさだからといって、デスクトップサイズとはいきません。

【静圧】
熱の悪影響はよく知られていますが、特に油圧静圧を用いた場合には、その高圧力につきものの熱対策(圧力鍋の原理と同じ)が必要となります。その対策のため周辺装置が必要となるため、設置スペースはどうしても大きなものとなります。大きな面積≒むだ ではなく、精度追及を目的とした必然です。



加えて、大小比較した場合の前提条件が同じであれば いろんな意味で大きいほうの機械こそが、商品としての品質が高い、という見方さえ可能なのです。

【転がり軸受】
個々のボールは当然弾性変形し、その度合いは荷重のかかり方で変わってきますが、一般的には直径の小さいボールを使うことが精度追及には有利となりますので、主軸をそれなりに小さくしていく方向(例:旋盤であれば、加工径の小さい方向)に行くほうが、それはやりやすくなります。つまり、加工径(≒主軸)は小さいほうがメーカーとしては精度を出しやすい・・ということです。「なんだ!やっぱり小さいほうがいいんじゃないか!!」…ということではありません。同じ精度であれば、主軸の大きな機械がえらい(難易度が高い)ということで、主軸の大きいほうが(程度問題ですが)小さくなっていくことは容易で、逆はそうではありません。

「工場目線自慢なんかどうでもいい!何が何でも小さいほうがいい!!」という主張は…残念ながら、主軸の大きさ(振りの大きさ)は、マーケッターの非難するところのスペース的効率には例外を除き貢献しませんので、「大きな躯体≒むだ」が成り立ちません。。(※ボール径を小さくすることで、ボール数を増やす必要がある場合、特に高速回転時に発熱の問題が発生し、熱対策が必要となるため、ボール径とボール数の関係は別に存在します)

このようにビジネスプレゼン方式を尊重し、ただし肝心のロジックは無視してしまっていますが、おもいつくままランダムに三点挙げただけでさえ、工作機械の「冗談のような大きさ」には意味があり、資産効率という経営指標だけを向上させたい、という動機から機械を小さくしていきたいだけなのであれば、そのために払うことになる犠牲とそれとを厳密に比較する必要があります。

もちろん、現状の制約を突きつけて、この例にたまたま登場しただけではありますが「小型ニーズ」そのものを振り払うつもりはまったくなく、モノづくりの大前提になっているのは「デザイン=設計」であり、それは上記の例のような「制約」とほどよく折り合うのか、もしくはあえて折り合わないか、折り合わないことによって何がどうなり、それをどうするのか、という意思決定である、ということです。

「小型化」への意思決定は、重量が軽くなることによる振動対策、この場合は、ユーザー側の設置環境向上への負荷をそれなりに要求することになります。また、「反作用」への対策、この場合は加工物材料の快削性や取り代の再検討など、それに伴った「システム完成度の未完分」をユーザーへつけまわすことになります。これら「犠牲の共有了解」が相当数のユーザーに前提として存在する、もしくはそのインフラが準備万端、したがって‥となれば別ですが、やみくもに「大きい≒むだ」を上流に向かって非難するだけでは、そのマーケッターの言うところの「顧客目線」のモノづくり、への意思決定とはならないのです。


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