2018年3月15日

第二回:
※デザイナー不明 /スイス製 微細孔加工機のカタログ(1990年代


奇襲



類にとって、最も危険な生物の筆頭。気配を消し、相手が無防備な時間帯こそ活動し、全身が捕食器と消化器、生殖器の権化であるかのような「機能のかたまり」。その攻撃時間は、またたく間。それが長くなってしまえば、安静を妨害された怒りに満ちた、圧倒的にレベルのちがう身体能力をもった相手からの執拗で容赦ない迎撃、さらには彼らの知恵の結晶である近代的化学薬品による煙幕反撃かまちぶせがまっている。だからこその奇襲。幼生時代でさえ、泥水をすすり、いかなる駆逐大作戦をもかわし、持たざる者ゆえの、これしかないゲリラ的ニッチ戦略で、いつでもどこでも、目障りな存在であり続ける。。



かし、すこし客観的に眺めれば、その精鋭コマンドのような作戦ぶりはともかく、そのハイ・パフォーマンスを可能にする機能、装備はすばらしい。長い手足、おそらく多機能センサー的役割のおおぶりな複眼、その気配を消すがためか、ただ漂うがために空気抵抗に任せたようなほっそりと小型軽量なボディ、そして、相手に苦痛をあたえない、したたかな配慮。天然の、すらっとみごとに微細なくちばし。

未来技術に頼ればロボット化が可能な生物いろいろを、つれづれなるままに空想したとして、これはまず、素材はその目的からはもちろん、フルカーボン(CFRP)モノコック構造。外装のカウリングデザインは、最も危険なそれであるからして、精悍な戦闘メカ兵器ロボット風いでたちこそふさわしい。だが機能的にはもっとも再現が困難な生物だろう。。



スキート()ロボットの空想ついでに、それをどこか架空の、対象年齢:児童向けアクション戦闘ロボ・アニメに登場させたとして…。設定は(もちろん)敵側(・・・・)の、“手練れ(てだれ)の三びき()編隊”。

視聴児童の興味を、25分間は維持しなければならないだろうから、ジェット機調のコクピットから、各キャラが独白気味にはくセリフがストーリーラインとなるのが常套手段なので、とりあえずいつもの、パイロットによる人的操縦。機体サイズ的にどのぐらいかは適当にあれとして、閑居はなはだしくも、さらにつれづれなるままに、PCに向かひて、こんな感じか。

▶真ん中の一ぴき()の外装だけが、”真紅”にペイントされている。(モデル:アカイエ蚊)

その紅い腕利きパイロットは、まぁいろいろ事情を抱えて反乱軍側となった、ぐれた放蕩者のような二枚目。30代前半ぐらいの青年将校。おちぶれたものの、けっして消え去ることのないものごしの華麗さが染みついた、わけありデカダンス調元冒険貴族。

世の不条理に対し、気まぐれに発する、行動家らしく能動的だが、それってただの単細胞?とは決して見透かされないオスカー・ワイルド的ニヒルさが加味されることで、そこに皮肉と哀愁とがカクテルされた意味深ぽい発言が、視聴ターゲットの児童たちではなく、意外にも、すねた態度に憧れつつも「ともかくやるしかない、(すでに今となっては)もうたいがい、いい大人」の間で流行する。

普段みえない制服の裏地が、ちらりとこれまた紅い。

▶他の2ひき()の外装は、擬態をもくろんでか、つや消し暗褐色、ステルス風ペイント。
(モデル:ヤブ蚊)

パイロットふたりは、数週間は着の身着のままであろうか、洗濯なしに貼りついた、青みがかった緑のビロード調戦闘服。もちろん、のらくら者であるからではなく、休息なき戦士たちがゆえ。灰皿のごとき責め苦に満ち満ちたゲリラ・コンバットをかろうじてマネージメント経験(少々)ありの履歴書そのまま、これまた誰も気に留めない灰皿のような表情が貼りついてしまったプロレタリアート風無頼顔。年齢は、外見すべてがニカワに覆われてしまったために不明。

時間をもてあましたときなどにたまにやる、長身なほうの「誰もしらない小唄」を鼻歌でうたう、小柄なほうの「手首に巻き付けた革バンド」を用いて、周期的なリズムでナイフをこすり上げて砥ぐ、という周りには気障りなクセがある。

▶無法者と同一視される彼らで、じつはほぼそのとおりだが、(自称)コンプライアンスを遵守することで、似たようなそのあたりの悪たれ腕白連中とは一線を画し、五年間の戦闘で、死に神になんどかは、その蒼白いホホをそっとなでられたこともあるが、なんとかうまくやってきている。以下ごくシンプルであるため、再確認・念押しされたこと、されることはない。

ーその① 役割についてー
リーダーの役割はただひとつ。作戦自体を立案し、作戦現場を下見し、作戦に必要なリソースを準備し、作戦実行の際は最初に突入し、作戦実行現場を(存在が許したのならば)最後に立ち去ること。そして、作戦による成果物、名声的なもの、金銭的なものを正しく分配すること。

(※なお、リーダーは固定的ではなく、個別の作戦により、能力・実績・態度をもとに流動的に扱われ、決定されるが、フェアなコンセンサスの結果、“紅の”男が務めることが多い様子。)

なお、構成メンバーは、それぞれのスペシャリティをぞんぶん発揮しさえすればよい。これは、リーダーを含めたメンバー全員にあてはまる。

ーその② 義務についてー
メンバー全員は、帰着不能と思われる事態におちいった他のメンバーを見つけた場合、すみやかに“別れの一撃”をあたえること。復讐心に燃えた相手から、なぶられるよりも“すっぱり”こと切れるための手伝いをしなければならない。これはそうなってみなければ誰もわからないものの、そのほうがいいにちがいない、というワンサイドからの合理的精神と、あきらめと、限界と、いろいろな複合的心象をもとに、やっぱり思考停止となり、前にも後ろにもすすめないがゆえの、弱いが、動くことのない結論として共有されており、皆それを望み、彼らすべてが過去にそれを経験している。

▶彼らは、たった数秒で完了させなければならない夜間奇襲を前に、淡い月明かりすら反射し、輝く花びらひとつさえ動かない暁、モモの木陰に身を隠し、テント編みブーツのゴム底になまあたたかい感触を感じながら、真っ黒でじめじめした土の上に起立しつつ、機械式腕時計の時刻を互いに見合わせ、きっかり同じにセット。めいめい、逆回転防止ベゼルのラチェットが鳴らすカチカチ音すら忌々しそうに辺りをうかがいつつ、それを所要インターバルに嚙合わせる。所要時間以上に、状況がもつれてしまった場合、つまり相手に反撃の猶予を与えてしまったのなら、その瞬間どうであれ自動的に敗走行動に切り替え、全力で反撃から逃れること…そんないつもの、そしていつも、のっぴきならない出撃の場面。

▶三びき()は、もっけの幸い、とりあえず運を味方につけたのか、ありがたくも、気まぐれなぶ厚い雲海にまぎれつつ、速度センサーのピトー管を兼ねたシルバーのくちばしで、冷気を切り裂きながら順風満帆に進む。それが途切れる手前で、皆本能的だろう、複眼モジュールに格納された黄色いハロゲンヘッドライトバルブを消す。

と、ほどなくして、月光輝く黎明の、蒼ざめた夜空に、予期せぬ方角から(・・・・・・・・・・)、紅を頂点にみごとな三角形を成して…だが、拍子抜けするほど緊張感なく、効果音すらなく、静寂のなか、幽玄ささえ引き起こすように、ただただ、“ぼぉっと”漂うように浮かび上がってくる。。。

プロローグ(出だし)でも、エピローグ(エンディング)、どちらでもいい。


“あやしうほどものぐるほしけれ”




たたく間、というのは決して“生産性”を正当化するだけではない。加工時間がかかれば、ワークピースに、それが工具による摩擦にせよ、電気的なソースによるなにか、であるにせよ、熱をたくわえ、サイズがかわる。面性状がかわる。また、マシーン自体の時間的変化の影響もある。もちろん、「よくない方向」に…

“奇襲”こそが、高生産・高精度な生産設備に求められる要件だ。

◀第一回:影を慕う