2018年5月20日

門番



髑髏(どくろ)。欧米では、“ジョリーロジャー” とも呼ばれる。気取った感じに“ブラック・ジャック”などと呼ばれることもある。日本の漫画と異なり、かわいらしくデフォルメされることはまずほぼない。写実的で、仰々しく、ただちに、あるイメージにたどりつく。

この作品、“大腿骨をぶっちがえた”クロス・ボーンのないめずらしいタイプ。ロケーションは風光明媚そのものの山岳鉄道のクライマックス、愛らしくも貫禄ある、かの地唯一の建物、スイス・アルプ・グリュム駅舎の裏口にある。それが、さわやかな、心身保養にはまたとない、サナトリウムを舞台にした、文豪トーマス・マンの“魔の山”の舞台となった保養地ダボスと、あらかたおなじエリアにあること、さらには、そこが特にアイコン的扱いがなされる程の、ピンポイントで最高のロケーションであることと無関係とはおもえない。。
 

”対比効果”、甘いスイカに塩の組み合わせ。あえて対照的なものをたたかわせることで、あくまで主役を引き立てること。たたかいといったところで、善戦してはいけないし、あっけなくてもいけない。あんばい加減をまちがうとたちまち台無し、興ざめ。だからこそ、きわどくもそそられるチャレンジングな手法。上級者向けマスターコースで、そもそも主役の魅力が強ければこその、無くてもよさそうな最後の一押しプラスアルファ狙いであり、題材になるのも十分な素質が必要なのだが。

感電注意のカミナリ記号と、毒物注意の“ジョリー・ロジャー”。コンビを組ませてまで喚起したいものとは?念押しダブル喚起など必要ない。それが証拠に、もしそれだけの警戒エリアであるなら、なぜフェンスもなく、シンプルな文言さえないのか?サンダルばきでの出入りさえ許されそうな勝手口。もちろん、だれかの露悪趣味が許される機会などではない。どうも狙った感が漂う。

魂胆は、それを口実に、そこが世界的名声の“滋養・生気回復の地”だからこその、対比効果。スイスらしいひねった演出、それだけではないか。

日本では、いたってストレートに、判で押したように牧歌的で“素のままですよ”的役割キャラクターを押し付けられがち、むしろお互いそれでよしといったところのスイス。だが、ゆるぎなき世界の観光地、さらにいろんな意味で独立独歩であり続けられるのは、そんなに甘くはない。。まったくもって、無防備などではない。そこでは、一流テーマパークばりの細やかな、自意識と自信に満ちた憎い演出がちりばめられており、そのたねあかし(たつもりになること)は、スイス散策のうがった、でも、相手が相手だけにカン違いと笑い飛ばすこともあれな、たのしみだ。

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