2018年4月18日

  最終回 レーシングカー・デザイナーの決着
    ㈱童夢ホールディングス 林みのる氏より、「かなりおおげさだが」との評価のもと、「どうぞ」と掲載承認済み



氏自らが語る、農機具置き場のような間借りガレージで「家出少年のなれのはて」のような仲間との:

「当時4人の既婚者のうち、3人が奥さんに逃げられた」


という、徹夜続きの「打ち上げ花火のようなものだった」という童夢-零の製作の日々。

何をやっているのか、と近所から怪訝な顔をされながら、ついに完成した童夢-零をガレージから出して近所に見せびらかそうとしたが、すでに外は夜だったというハレの日。

困窮のなかではあったが、あえて檜舞台での一発勝負に出たジュネーブ・ショーでの童夢-零の披露、そのセンセーショナルな登場のわりには、その期待に反する帰国後の業界からの無反応。

しかし、意外にも持ち込まれた童夢-零のおもちゃ化の多額な版権収入。それを原資に、強引にもルマン24時間レース出場のためのレースカー製作と参戦。

しかし、ついにこれまでかというタイミングで、ルマンへの挑戦でのプレゼンス向上による、自らは裏稼業と称する、完成車メーカーからのコンセプトカーの試作依頼。

まずは自身が先駆隊となって継続参戦することで、完成車メーカーのルマン参戦意欲を引き出してのレースカー開発受託。

そして、林氏の先見性によるカーボン・コンポジット構造の実験に始まる、これもまた先駆者としての、業界を超えたところからの高い評価。それも、ある者にとっては恋焦がれるほど垂涎の「航空機業界」からの、独自技術への評価。

う整理してしまえば、林氏の物語は「賭け」と「時代の要求」が常にうまく交わることで、外からは、きわどい場面はありつつも、総じてよどみなく好転してきたように見える。だが、それは経営センスなどといったものではない、と、くりかえし断言する。

「誤解されやすいが、もとより経営ビジョンなど持ってはいない。レーシングカーをつくりたい。ただそれだけ。」

「レーシングカーをつくりたいという自分の情熱は、カビと同じ。もとから絶たなければだめ。」

「レーシングカー・コンストラクターは、なくとも誰も何も困らない存在。好きなそれを40年以上も続けてこられたのは、ビジネスセンスに溢れていたからではなく、ルーレットの同じ目を10回続けて当てるようなぐらいのツキがあっただけ。」

「カーボンも含め(風洞設備も)、先見の明があったわけではない。全然違う。80年代半ば当時、レーシングカーを作り続けようと思ったら、それは避けては通れなくなっていた。海外では当たり前に使われていたし、日本だけが遅れていた。『レーシングカーつくるのやめますか?カーボンつくりますか?みたいな』。コンストラクターとして必要だからやっただけであり、清水の舞台から飛び降りるというより、飛行機から飛び降りるような覚悟だったけど。」

「でも、ツキも寝ているだけではやってこない。ツキを呼び込むには、仕掛けづくりが必要。それを冒険とよぶならば、自分は冒険が大好きなのだと思う。」




012
8月、一貫して自身を経営者としてではなく、レーシングカー・デザイナーとして認知してきた林氏は、自身の年齢によるレーシングカー・デザイナーとしての創造力への影響を、ひとつの大きな理由として㈱童夢の代表を引退。


次いで、この㈱童夢カーボン・マジックは、㈱東レに売却。
※現在 ㈱東レ・カーボン・マジック

50%
ムービングベルト風洞実験装置(風流舎)は,トヨタモータースポーツGMBHTMG)へ売却。

結果として、資産・人員的に非常に身軽となった㈱童夢本体は個人(知人)へ売却。

その収束の経緯を見守るかのように、20157月をもってレーシングカー・コンストラクター㈱童夢から完全に引退する。

自身のアイデンティティを、“レーシングカー・デザイナー”、としていた林氏だからこその、あまりにあっけない幕引きだった。:

「自分としては遅すぎる引退だと思う。デザインやセンス、感性の部分ではものすごく衰えを感じるから。ロゴひとつ考えるにしても、昔は瞬間芸と言われていたが、いまは時間を掛けてもいいのができない。衰えというのはそんなもん」



(※売却後の新生・童夢の新本社竣工式典の挨拶にて)わたし以外にこの会社はできないと基本的に思っている。ですから、社長が変わったとたんにつぶれてくれないと私の立場がない。急に右肩上がりになったら『あいつは何やっとったんじゃ』と言われてしまう。
成功してくれたらそれはそれでいいし、私は老後の面倒を見てもらおうと思っていますし、潰れたら潰れたで私の評価が高まるのでどっちでもいいと思っている。足を引っ張りつつ協力していくという微妙な立場で、これからも応援していきたい」

 冒険王 林みのる カーボンブラックの狼煙 以上

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